モンテ・クリスト伯を知ってますか?
日本では昔から「岩窟王」の名前で紹介され、児童向けの抄訳で読んだ方もいらっしゃるかと思います。最近はディーン・フジオカさんの主演でドラマ化もされましたね。
でもこの小説、本当は文庫本で全7冊(岩波文庫版)もある、とても長い小説なんです。
「無実の男が陰謀により孤島の牢獄に幽閉される。決死の脱獄、そして復讐のため仇敵のもとに別人となって現れる・・・」
これだけ読んでもわくわくしますね。実際読み始めると長編であることを忘れ、あっという間に読んでしまいます。
拘置所のカルロス・ゴーンさんにも是非お勧めしたい!出所後は本当に復讐しそうで日産の役員さんも戦線恐慌でしょうね。ゴーンさんが無実かどうかは知る由もありませんが・・・。
今回は全7冊のうちでも一押しの第1巻(岩波文庫版)をご紹介します。
◆主な登場人物
ダンテスの仲間
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エドモン・ダンテス:物語の主人公 貿易船ファラオン号の一等運転士
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ダンテスの父親:息子の無実を信じながら無念のうちこの世を去る
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メルセデス:ダンテスの許嫁
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モレル:ファラオン号の船主 ダンテスを船長に指名しようとする
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ルクレール:ファラオン号の船長 ダンテスに手紙を託し死亡
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ファリア司祭:牢獄でダンテスと知り合い、宝のありかを教える
ダンテスの敵
ヴィルフォールの家族
その他
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カドルッス:ダングラールの悪だくみを知りながらダンマリを決め込む
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ケネル将軍:王党派の軍人 ノワルティエに暗殺される
◆あらすじ
主人公ダンテスはファラオン号の一等運転士。船主のモレル氏からの信任も厚く次期船長候補です。美しい娘メルセデスとの婚約も決まっており明るい未来が約束されています。
しかし許婚式の最中、突然警察が現れダンテスは逮捕されてしまいます。実は密かに船長の座を狙っていた同僚のダングラールと、メルセデスに恋心をいだいていたフェルナンが、ダンテスを陥れるため嘘の告訴状を書いたのでした。
ダンテスは検事代理ヴェルフォールの尋問を受けることになります。最初ヴェルフォールはダンテスの無実を確信し、釈放しようとします。ところがダンテスの口から意外な人物の名前を聞かされ驚愕します。それはヴィルフォールの父親ノワルティエの名前だったのです。
熱烈なボナパルト派だったノワルティエはエルバ島に島流しとなっていたナポレオンと密通し、王に謀反を企てていたのでした。
時代は復古王政の時代です。こんな事が世間に知れれば息子のヴィルフォール自身が失脚してしまいます。そこでダンテスの口を封じるため、彼を孤島の牢獄シャトーディフに幽閉してしまいます。
長い年月が経ち、やがてダンテスは獄中で囚人のファリオ司祭と知り合うことになります。
賢明なファリオ司祭はダンテスの話を聞き、ダングラール、フェルナン、ヴィルフォールがダンテスを罠に陥れたことを看破します。
自分の身になにが起こったのかようやく理解し、復讐の心を抱き始めたダンテス!
その後二人はシャトーディフから脱獄を企てますが、ファリオ司祭が発病し脱獄を一度は諦めます。余命いくばくもない事を悟ったファリオ司祭はダンテスに一枚の古びた紙を託します。そこには15世紀の資産家スパダが隠した莫大な宝のありかが記されていたのでした。
◆感想
第一巻の大まかなあらすじだけでも盛沢山ですよね。登場人物も大勢でてきて整理するのも大変ですが、思ったことを3つにまとめてみました。
1.息もつかせぬストーリー展開
この小説が読者を引き付けることに成功した理由は、一番の見せ場を物語の前半にもってきたことでしょう。主人公が出世・結婚という幸福の絶頂から一転地獄に突き落とされるというわかりやすい展開は、読者が共感しやすく、「復讐」というに動機に自然と感情移入するような構成になっています。
また細かい感情表現を省き出来事が次から次へと展開していく様は、スピード感があり、読者は知らず知らずのうちに物語の中に引き込まれていきます。
ところで皆さんも復讐したいやつの一人や二人はいるでしょう?hirozonも会社に3人はいます。でもこういうのに限って偉くなるんですよね。あれ、何でですかねぇ?この物語の悪役3人も大出世しますが、その話はまた今度。
2.時代に翻弄される主役たち
物語に実際に起こった歴史的事件を取り入れ、登場人物が否応無しに時代に翻弄される様を描いています。こういった描写は当時のフランス人にとってリアリティがあり、共感を得やすかったのではないでしょうか。
18世紀後半から19世紀中ごろまでのフランスは政治的に大混乱の時代でした。
フランス革命 → 第一共和制 → 第一帝政(ナポレオン) → 復古王政(ルイ18世) →百日天下(ナポレオン) → 復古王政(ルイ18世復位、シャルル10世)→立憲君主制(7月革命・ルイ・フィリップ)→第二共和制(二月革命)→第二帝政(ナポレオン3世)→第三共和制
目まぐるしく時の権力者が変わる中、誰の味方につくかによって多くの人の運命が左右されたことでしょう。小説が新聞に連載されたのは1844年から1846年でしたが、ダンテスやヴィルフォールが自分の意志とは関係なく時代に翻弄される様は、当時のフランス人にとって感情移入しやすいテーマだったはずです。
ダンテスを監獄送りにした検察代理ヴィルフォールも、好き好んで悪事を働いたわけではありません。ボナパルト派の父親ノワルティエとエルバ島のナポレオンとの密通が発覚するのを恐れ、口封じのための苦渋の選択だったのです。
このお父さんのせいで、ヴィルフォールは王党派の姑サン・メラン侯爵夫人から散々嫌味を言われるは、ケネル将軍の暗殺でひやひやさせられるは、たまったものではありません。
ヴィルフォールの嘆きを聞いてあげましょう。
ああお父さん、お父さん、あなたはこの世にあって、いつまでこの私の幸福の邪魔をしようとなさるのです?わたしは永久にあなたの過去と闘わなければならないのですか?(山内義雄訳)
何だか可哀そうな気もしますが、ボナパルト派の父親と王党派の息子の確執は、この物語の後半まですっと重要な伏線となります。
3.海と宝島
主人公ダンテスを船乗に設定したのもグッドアイデアだったと思います。孤島シャトーディフからの脱獄、海賊との出会い、モンテクリスト島の宝さがしといった、スティーヴンソンの「宝島」のような海洋冒険小説の要素が加り、そこが子供向けの抄訳で広く普及した理由だと思います。
ルネサンス時代の大金持ちスパダが宝を隠した理由も面白かったですね。アレクサンドル6世やチェーザレ・ボルジアといった実在の人物も登場し、いかにも本当らしさを演出します。ダンテスも最初は信じていませんでしたが、だんだん「本当っぽいぞ・・」と思い始めたようですし。
でも宝さがしの前に、まずは脱獄しないとね。ということで続きはまた今度。

- 作者: アレクサンドルデュマ,Alexandre Dumas,山内義雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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