モンテ・クリスト伯の第五巻(岩波文庫)はヴァランティーヌの結婚問題と彼女の周りで起こる不審な死亡事件を中心に話が進みます。モンテ・クリスト伯の出番が少なく、途中で誰が主人公だったか忘れてしまいそうですが、あくまでもモンテ・クリスト伯の復讐劇です。
また、モルセール伯爵がなぜ漁師から貴族に成り上がることができたのか、彼の秘密もだんだん分かってきますよ。
ヴァランティーヌの結婚問題
ヴァランティーヌはフランツ・デピネーと婚約してることは前回の第四巻でお話ししましたね。彼女は本当はマクシミリヤン・モレルと結ばれたいと思っています。ところが父親のヴェルフォールが強引にフランツとの婚約を進めようとしています。
こうした中、ヴァランティーヌの母方の祖父母サン・メラン侯爵夫妻が、孫娘の結婚問題について話をするためマルセイユからパリのヴィルフォール家に向かいます。ところが侯爵は旅の途中で丸薬を飲んで急死してしまいます。サン・メラン侯爵夫人だけがヴィルフォール家にやってきますが、彼女も部屋でオレンジジェードを飲んだ後、体調を崩してしまいます。(オレンジジェードがジュースのことなのか、よくわかりませんでした・・・)
サン・メラン侯爵夫人は自分の行く末が長くないことを悟り、自分の全財産がヴァランティーヌに相続されるよう取り計らいます。そしてフランツとの結婚を急いで進めようとします。
フランツがイタリアからパリにつき次第、結婚契約書に署名することが決まりました。ヴァランティーヌは庭の柵に隠れていたマクシミリヤンにこのことを告げます。二人は署名する前に駆け落ちして家から逃げることを誓います。
とうとうフランツがヴィルフォール家を訪れ、結婚契約書にが署名する日が来ました。マクシミリヤンは駆け落ちするため約束通り待ち合わせの場所を訪れます。ところが彼女はいつまでたってもやってきません。マクシミリヤンがしびれを切らし柵を越えて庭に隠れていると、ヴィルフォールと主治医のダウリニーがやってきます。そしてサン・メラン侯爵夫人がなくなったとの会話を盗み聞きします。このため婚約が延期されたのでした。
マクシミリヤンはヴァランティーヌと会うため、屋敷の中に侵入し、サン・メラン侯爵夫人の亡骸の傍らですすり泣く彼女を見つけます。
ヴァランティーヌはマクシミリヤンを祖父ノワルティエの部屋につれていきます。マクシミリヤンは二人で駆け落ちをしようとしている計画を老人に告げますが、彼は反対します。ノワルティエの指示は、自分に考えがあるのでそれを待てということでした。マクシミリヤンは彼を信じ屋敷を後にするのでした。
サン・メラン侯爵夫妻のお葬式が終わると、ヴィルフォールはこの後すぐに結婚の契約を取り交わすことにします。公証人デシャン、フランツの証人としてアルベール、シャトー・ルノー、そしてヴィルフォール夫人と息子のエドゥワールが見守る中、結婚の署名がはじまります。ところがその最中、ノワルティエの家令バロアが現れこう告げます。「ノワルティエさまがフランツ様とお話しを申し上げたいとおっしゃられておいでです!」
ヴィルフォールは断りますが、フランツはその申し出を受け入れ、ノワルティエの部屋を訪れることを決意します。フランツはノワルティエの彼に対する反感がいかに間違っているか証明しようと考えたのです。ところがノワルティエが語った話は、フランツが予期しないものでした。その結果この縁談は破談となります。どんな話だったかは小説を読んでくださいね。
こうしてヴァランティーヌは危機一髪のところでフランツとの婚約を免れたのです。でもフランツが可哀そうですね。彼は何一つ悪くないのですから。
モルセール伯の人に言えない出世物語
もう一方の婚約話、モルセール家の息子アルベールとダングラール家のユージェニー嬢との間にも不穏な空気が流れています。もともと若い二人が互いに関心がなかったことに加え、ダングラールの気持ちがモルセール家から離れてしまっていたのです。
ダングラールはモンテ・クリスト伯のたくらみで徐々に資産を減らしていました。そこで大資産家との噂のあるカヴァルカンティ家のアンドレアと娘を結婚させようと企んでいたのでした。ダングラールはモルセール家との婚約を破談にさせる口実を探していたのです。彼はモンテ・クリスト伯にモルセール伯が本当の貴族ではなくもともとはフェルナン・モンデゴという名の漁師だったこと、彼の出世がアリ・パシャ事件と何やら関係があるらしいとの噂がある事を漏らします。
モンテ・クリスト伯は「ジャニナ(現ギリシャのヨアニナ)にある取引先に手紙を出し、アリ・パシャが没落したとき、フェルナンという名のフランス人がなにをしていたのか確かめてもらえばよい」と入れ知恵をします。
ちなみにアリ・パシャ(=アリ・テブラン)というのはテぺデレンリ・アリー・パシャとのいう名の実在の人物です。オスマン帝国内のヨアニナを領地として半独立国のように振舞っていたのですが、最後はオスマン帝国のスルタン・マフメト二世により毒殺されてしまいます。
モンテ・クリスト伯の女奴隷エデはこのアリ・パシャの娘として小説に登場します。エデはアリ・パシャがフランス人士官の裏切りにより殺さ頃された後。奴隷商人に売られてしいますが、モンテ・クリストが彼女を買って助けたという訳です。
話を戻しますが、モルセール伯はダングラールの態度が一変し、この結婚に否定的な態度をとるようになったことに驚きます。ダングラールは決してその理由を言おうとしないどころか、「これ以上説明しないことを、むしろ感謝してほしい」とまで言うのです。
ほぼ時を同じくして、アルベールの友人ボーシャンが編集長を務める新聞にジャニナの要塞は、アリ・パシャが信頼していたフェルナンという名のフランス人士官の裏切によりトルコ軍に引き渡された」という記事が掲載されます。
新聞には「フェルナン」としか書かれていませんでしたがアルベールは自分の父親が侮辱されたと考え、ボーシャンに記事の撤回か、さもなくば決闘を求めます。
ボーシャンは事実の確認をするため三週間の猶予がほしいと願いますが、もし本当のことだったら記事の撤回はせず、アルベールの決闘の申し出を受け入れると話すのでした。
三つの殺人事件
最後にもう一度ヴィルフォール家に話を戻します。
フランツとの結婚が破談となって喜んだのはヴァランティーヌだけではありません。実は継母のエロイーズも内心ほっと一息ついていたのです。というのはのノワルティエはもしフランツとヴァランティーヌが結婚するなら自分の遺産を全て貧しい人に分け与えると遺言に残していました(第四巻)。破談によりノワルティエは財産を全て孫娘のヴァランティーヌに与えるよう遺言を変更したのです。財産を実の息子のエドゥワールに分けたいと思うエロイーズにとっても、この破談は都合の良いものだったです。
さて、もう一人大喜びしているのがマクシミリヤンです。彼はノワルティエに呼ばれ大急ぎでヴィルフォール邸にやってきます。ヴァランティーヌはノワルティエとこの屋敷を出ること、そしてマクシミリヤンとの結婚について話をします。マクシミリヤンは天にも昇る気持ちです。ところがその最中家令のバロアが倒れ、もがき苦しみ始めました。彼はのどが渇いたため、ノワルティエのために作られたレモネードを飲んでしまったのです。バロアは苦しみながら死んでいきました。
主治医ダウニーはヴィルフォールに、サン・メラン侯爵夫妻とバロアの死は病気ではなく毒を使った殺人だということ、バロアの死は、本当の狙いはノワルティエであったことを告げます。そして三人の死で得をする人物がこそが犯人であり、意外な人物の名を挙げます。それは三人の遺産を全て相続する人物、ヴァランティーヌだというのです。
今日はこの辺で、続きはまた。

- 作者: アレクサンドルデュマ,Alexandre Dumas,山内義雄
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1956/08/25
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