「別に・・」の一言で一時期芸能会を干されてしまった沢尻エリカさん。発言もさることながらあの時のファッションも強烈でした。”原始家族フリントストーン””みたいな。でも最近はテレビでもよく見かけるようになり、完全に復活した様子です。よかったですね。
実は大昔のイギリスにもたった一言で人生を狂わせた女性がいました。その人の名はコーディリア。シェイクスピアの戯曲「リア王」に登場する悲劇のヒロインです。彼女を破滅に追いやった一言は「nothing」(何も・・)
でもエリカ様とは異なり彼女は悲劇的な最期を遂げます。たった一言がなぜ彼女の人生を狂わせたのか、さっそく「リア王」のあらすじを見てみましょう。
主な登場人物
■リア王
ブリテンの王。国を三人の娘に分け与えようとするが、それが原因となり悲劇を引き起こす。
■ゴネリル
リア王の長女。夫はアルバニー公爵。リア王には美辞麗句を並び立て領土を手にするが、次第に父親を虐げるようになる。最後はエドマンドをめぐり妹のリーガンとも争うことに。
■リーガン
リア王の次女。夫はコーンウォール公爵。姉と一緒に父親を追放する。夫の死後はエドマンドと結婚しようとし姉と対立。
■コーディリア
リア王の三女。父親の怒りをかい追放されるが、フランス国王と結婚する。その後姉たちに虐げられた父親を救うため再度フランス軍とともにブリテンへ渡る。
■アルバニー公爵
ゴネリルの夫。エドマンドと共にフランス軍に勝利しリア王とコーディリアを捕えるが、最後は邪悪な野心を持つ妻とエドマンドを反逆罪で告発する。
リーガンの夫。グロスター伯爵がフランスと密通してるのを知り、グロスターの両目をえぐってしまう。
■グロスター伯爵
リア王の忠臣。次男エドマンドにだまされ長男エドガーを追放してしまう。娘たちに追放されたリア王を救おうとするが、それがもとで両目をえぐられてしまう。
■エドガー
グロスター伯爵の嫡男。腹違いの弟エドマンドの策略により父親から謀反の疑いをかけられる。逃亡した後「トム」に変装し両目を失った父親を助けようとする。
■エドマンド
グロスター伯爵の庶子。父親のグロスターと兄のエドガーをだまし、嫡男としての権利を手に入れようとする。
■ケント伯爵
リア王の忠臣。コーディリアの追放を諫めようとして、自らもリア王の怒りを買い追放されてしまう。その後も変装してリア王に近づき王を助けようとする。
あらすじ
第一幕 言葉足らずな娘に父親が激怒。コーディリアよ、もっと空気を読め!
年老いたリア王は国を三人の娘たちに分け与え、自分は引退しようと考えていました。そこで娘たちに王への思いを述べさせ、それに応じて三分割した国を誰に与えるか決めようとします。
長女ゴネリルと次女リーガンは美辞麗句を並び立てリア王の愛情を勝ち得ますが、三女のコーディリアは「申し上げることはありません」と答えてしまいます。それを聞いたリアは「なんと冷たい娘だ」と激怒し、彼女には相続させず国外へ追い出してしまいます。コーディリアの真意は”感謝の気持ちはうわべだけの言葉では言い尽くせない”ということでしたが、年老いて偏屈となったリアはそうした娘の気持ちをすくい取ることがきませんでした。
王の忠臣ケント伯爵はコーディリアを不憫に思い、リアを諫めようとしますが、逆に怒りを買いケントまでもが追放されてしまします。
ちょうどその時フランス王がイギリスに滞在していましたが、コーディリアの真意を理解し、持参金を何一つ持たない彼女を妻としてフランスに連れ帰ります。
一方リア王から国を相続した長女ゴネリルと次女リーガンですが、ちょっとしたことで癇癪を起す父親を見て、いずれは自分達の身にも災いが降りかかるかもしれないと危惧します。
さて、隠居したリア王ですが、まず長女ゴネリルの屋敷に滞在しようとやってきます。そこにはリア王に追放された忠臣ケント伯爵も、再び王に仕えるため別人になりすましてやってきました。
ところがゴネリルは相変わらず尊大にふるまうリア王に腹を立て、父親を無下に扱おうとします。彼女は王が引き連れてきた付き人を勝手に100人から50人に減らしてしまうのです。
リア王は以前とは打って変わって冷たい態度をとるようになった娘に腹を立て、もう世話にはならぬと次女リーガンの屋敷に向かうのでした。
一方リーガンはリア王との面会を避けるため屋敷を留守にし、夫のコーンウォール公爵と共にグロスター伯爵の屋敷へ行ってしまいます。
そのグロスター伯爵ですが、彼には二人の息子がいました。長男のエドガー、次男のエドマンド。エドマンドは自分が愛人との間にできた庶子のため軽んじられていると感じており、兄エドガーを失脚させ父親の土地を全て自分のものにしようと企んでいました。エドマンドは手紙をねつ造し、父親グロスター伯爵にはエドガーが命を狙っていると、エドガーには父親が激怒していると信じ込ませることに成功するのです。
第二幕 二人の娘から責められ、リア父さんはついに発狂!
エドガーは身の危険を感じ城を出て行方をくらませます。一方エドマンドは自身を刀剣で傷つけエドガーに殺されかけたと嘘をつきます。怒ったグロスター伯爵は長男エドガーを追放し、土地の相続権を次男エドマンドに与えてしまいます。
一方リーガンの屋敷を訪れたリアですが、すでに彼女は夫と共にグロスター伯爵の城へ発った後でした。リアは何の知らせもなく旅立った夫婦を訝りますが、自身も後を追ってグロスターの城を訪れます。しかしリーガンはなかなかリア王に会おうとしません。
ようやくリアはリーガンとコーンウォールと面会し、長女ゴネリルの冷たい態度を訴えます。ところがリーガンは姉の肩を持ち、逆にリアを非難します。そこにゴネリルも到着し二人してリア王を責め立てます。リーガンが王の付き人は25人までしか受け入れないと言うと、王は「では50人を認めてくれたゴネリルの屋敷に戻ろう」と語ります。それに対しゴネリルは「どうしてそんなに必要なのか?」と言い返し、更にリーガンは「1人でも必要か?」と吐き捨て王を追い詰めていくのでした。
第三幕 閲覧注意!?忠実な部下が両目をえぐられる話
リアはとうとう精神に異常をきたし、嵐の中、荒野をさまよい歩きます。ケントはリアを探し出し小屋へと避難させますが、その小屋で王はトムとう名の狂人に出会います。実は父親グロスター伯殺害の容疑をかけられ逃亡したエドガーが狂人を装い小屋に避難していたのです。
一方グロスターは荒野をさまようリアを助けるためフランス軍が上陸しているドーヴァーにリアを連れていき、保護しようと画策します。ところが息子のエドマンドは父親がフランス軍と通じていることを知ると、リーガンとコーンウォールに密告してしまうのです。怒ったコーンウォールはグロスターを捕らえ、両目をえぐった上、城の外へ放り出してしまいます。しかしコーンウォールはあまりの非道ぶりに憤った召使に切りつけられ、致命傷を負うことになります。
グロスターは両目を喪い、ようやく自分がエドマンドにだまされていたこと、そしてエドガーには何の罪もないことを悟ったのでした。
第四幕 勘当した子供とのせつなすぎる再会
狂人トムに扮したエドガーは荒野で盲目となったグロスターと出会います。グロスターはドーヴァーの崖から身投げをするため、トムに道案内を頼みます。(グロスターは目が見えないため、トムが自分の息子エドガーだということを知りません)エドガーは父親の命を救おうと、平たんな場所を選び、高い崖だと嘘をつきます。グロスターは身投げした後、気を失いますが自分が生きていることに気づき驚きます。エドガーはたまたま通りかかった通行人を装い、あんな高いところから落ちて死ななかったのは奇跡であり、もう何も恐れることはないと、父親を励ますのでした。
ゴネリルはフランス軍との戦いに備えるよう、夫のアルバニー公爵を説得するため自分の屋敷へと向かいます。ところがアルバニーのゴネリルに対する態度は冷たいものでした。彼はリアに対するゴネリルのひどい仕打ちを知り彼女を責めます。ゴネリルもまた夫を不甲斐ないと思い始めます。そこにちょうどコーンウォールが死亡したとの知らせが入ります。アルバニーはコーンウォールが死んだ経緯と、彼の手によりグロスターが両目を失ったことを知り、グロスターのかたきをとることを決意します。
一方リア王はケント伯爵に導かれてドーヴァーまでやってきます。リアはほとんど正気を失っていましたが、コーディリアと再会し彼女に対するひどい仕打ちを詫びるのでした。
第五幕 救いの無い最後 そして誰もいなくなった・・・
フランスとブリテンの戦いの結果、フランス軍は敗れ、リア王とゴネリルは捕虜となります。
一方、夫のコーンウォールを喪ったリーガンは、ブリテンを勝利に導いたエドマンドとの結婚を宣言をします。ところが姉のゴネリルもエドモンドに思いを馳せていたため、二人は言い争いになります。
ところがアルバニーはエドマンドと妻のゴネリルを反逆の罪で捕えると告発します。実はエドマンドとゴネリルは共謀してアルバニーを殺し、二人で結婚をする算段だったのです。(エドマンドは姉妹に二股をかけていたのですね!)
さらにアルバニーは伝令にラッパを吹かせ、エドマンドの反逆を訴える者がいれば名乗りをあげるよう呼びかけます。するとラッパに応え甲冑に身を固めた男が名乗りをあげ、エドマンドとの決闘に挑みます。エドマンドは致命傷を負い、甲冑の男がかつて自分が追放した兄のエドガーであることを知ります。
そこにゴネリルとリーガンの死が知らされます。ゴネリルは嫉妬のためリーガンに毒を盛り、短刀で自ら命を断ったのでした。
瀕死のエドマンドは部下に獄中のコーディリアを殺すよう指示していたことを告白します。エドガーは急いで暗殺を阻止しようとコーディリアの元に向かいますが、彼女はすでに殺されていました。正気を失ったリア王がコーディリアの死体を抱きながら現れますが、彼も絶望しながら息絶えるのでした。
感想
救いのない終わりですね。主要な登場人物はほとんど死んでしまいます。リア王、コーディリア、ゴネリル、リーガン、グロスター伯爵、エドマンド・・・
でも舞台を現代に移すとちょっとありそうな話だと思いませんか?例えば社長が引退した後もしょっちゅう会社にやってきて、相変わらず傍若無人にふるまってるとか。あるいは年老いた親を子供が虐待するとか。いかにもワイドショーにでてきそうな話ですよね。意外と現代に通じるテーマかなと。
またこの物語は二つのストーリーが表裏一体となって同時進行するという面白い構成となっています。主筋はリア王を中心するストーリーで「リア王は邪悪な長女と次女にたぶらかされ、誠実な三女を追放するが、正気を失った後、自身の過ちに気づきく」という話。副筋はグロスター伯爵を中心とするストーリーで「グロスター伯爵は邪悪な次男にたぶらかされ誠実な長男を追放するが、視力を失った後、自身の過ちに気づく」という話。構造はまったく同じストーリーですよね。二つのストーリーをうまくからめることにより、悲劇性を高める演出に成功していると思います。ちなみにトルストイは「副筋が邪魔だわい!」と批判したそうですが。
あと、今回のあらすじでは全てカットしましたが、実は「道化」が登場します。登場した時は度肝を抜かれました。王に対してすごいタメ愚痴ですから。「ねえ、おっさん、おっさん!」みたいな感じで辛辣なことも言いたい放題。リア王の気性の激しさから察するにすぐに殺されそうな気がするのですが、王は怒りません。道化は登場人物として描かれているのか、あるいは王の狂気を代弁する象徴的な役回りとして出てくるのか、さまざまな解釈が可能だと思います。
またシェイクスピアの劇団は人手不足で、道化はコーディリアと同じ役者が演じていたとの説があります。というのは道化とコーディリアが同時に出てくる場面がないのです。リア王が死んだコーディリアに向けた最後のセリフは「And My Fool is hang'd!」(おれの阿呆が首を絞められた)。道化も英語では「Fool」です。真実味のある説だと思いませんか?。
で、「リア王」を読んで誰かに推薦するか?と聞かれたら、う~ん・・・しませんね。(笑)
長い文章を読んでいただき最後にお勧めしませんというのもなんですが、面白い話ではないです。まずコーディリアの「なにも・・・」に対する王の怒りが理不尽すぎてついていけません。トルストイも「リアの怒りは不自然じゃねーの?」と批判しておられ、hirozonと同意見です。ちょっとうれしい。
それと狂人となったリア王、道化、トムの会話がシュールすぎて正直しんどいです。意味不明の会話が延々と続きます。何か深い意味があるのでは?と思うのですがhirozonの頭では理解できませんでした。
ちなみにhirozonの上司も理解不能な説教を延々とたれます。最初は「その背後にある真意を読み取ろう」と必死にヒアリングしようと努めていましたが、最近は「狂人なんじゃねーの?」と思うようにしています。(笑)
でもいろいろなところで引用される「リア王」。黒澤明の「乱」もリア王をベースにしていますからね。教養として読んでおくというのは有りだと思います。
リア王はシェイクスピの四大悲劇です。他の戯曲はマクベス、ハムレット、オセロー。
マクベスについてはこちらをご覧ください。
当たりすぎる占いは身を滅ぼす? シェイクスピア マクベス - 世界名作探訪
それではまた。

- 作者: ウィリアムシェイクスピア,William Shakespeare,福田恆存
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